『鉄コン筋クリート 1〜3』 松本大洋 (小学館)
昨日の『ピンポン』の原作者松本大洋のマンガを生徒に借りて読んでみました。この人は天才ですね。なにしろ絵がうまいうまい。
最初は、ストーリーも場面も読み取りにくいし、絵もいわゆるヘタウマ系なのかと思いました。よってなかなか先に進まない。ちょっと辛いな、と感じました。
しかし、読み進むうちに、まずは絵に引き込まれました。昨日は、映画がマンガに追いついてどうする、みたいなことを書きました。けれど、今日は松本大洋のマンガが実に映画的だと書かねばなりません。これはどういう事態なんだ?頭の中が整理できない。
彼の絵の視線は自由に宙を舞っています。登場人物が奔放に飛んでいるように見えますが、実は最も飛んでいるのは作者自身なのです。ある時はレールの上を滑り、ある時はクレーンの上から見下ろす。やや統一感を欠く印象すら与えます。しかし、その独特のダイナミズムに乗れるようになると、実に心地よくなってくる。
また、彼のキャメラのレンズの焦点距離は短い。よって遠近感が強調される。さらに、彼のフィルムのラチチュードは狭い。よってコントラストが強調される。
こういったエンファシスの効果によって、私たちの視線は自然な人間のそれからかけ離れています。つまり、自分の視線で世界を見るというより、何か媒体を介して世界を見ている感じ。そう、それが映画的と言う所以です。
そうした絵の世界のダイナミズムやフィクション性に呑まれていると、なぜか不可解であった言葉たちが、生き物の一部のように機能し始める。そうして結局作品全体が魅力的な意味を持ってくるわけです。暴力の充満した街で、暴力に頼って生きていく兄弟。しかし、その兄弟の暴力の邪気の無さに癒されてしまう。読後、不思議なほど穏やかな気持ちになってしまいました。全く不思議な作品です。
私はマンガに詳しい方ではありませんが、こうした技術と技法と内容を生み出すニッポンのマンガ文化の奥深さには、今さらながら驚かされます。たしかにこれは江戸の大衆文化と似たダイナミズムを持った文化です。どんどん新しいものを産出し、どこが高みなのかすらわからない、非常に生命感の強く感じられる分野ですね。
ちなみに生徒によると、最近の松本さんの画風・作風はだいぶ違っているとのことで、そちらの方も今から楽しみにしております。
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