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2005.07.09

『文房具56話』 串田孫一 (ちくま文庫)

4480036067 また、私の心の師が亡くなってしまった。ほんとうに情けない。喪失してみて初めてわかることの多さに、たとえようのない切なさを感じます。
 串田孫一さんを知ったのは、おそらく中学生の時だったと思います。FM東京で放送されていた「音楽の絵本」。ある意味私の青春期、いや人生を決定した番組でありました。あの独特の空気を含んだ日曜日の朝日の中、ヴィヴァルディの調べで幕を開けるこの番組。串田さんの自然体の語りはこの上なく魅力的でした。音楽、美術、文学、山、旅、星、神話…。そこで語られたことが、今の私を構成していることがわかります。
 高校に入り、哲学的な生活を志した私は、串田さんに憧れ、串田さんの本をかたっぱしから読みました。おそらく今までの人生の中で、最も多く読んだのは、串田さんの本でしょう。高校当時の日記を読むと、そこには、串田さんの思想や文章を必死にまねようとする私がいます。今となっては、そんなことも若気の至りで恥ずかしい限りなのですが、当時の私はコンプレックスの塊のような、いわば典型的な青春期を過ごしていましたので、ある意味串田さんに救いを求めていたのかもしれません。そして、実際救われた。今、こうして有意義な毎日を過ごしていられるのは、そうまさに串田孫一さんのおかげなのです。
 自宅の地下書庫にいけば、昔集めた串田さんの書籍がたくさんあるでしょう。ここ数年はあまり手に取らなかったこうした本たち。こういう機会に、というのはほんとうに辛いのですが、やはりこうして語り継いでいかなければならい。あらためて読んでみたいと思います。
 とりあえず、というのも申し訳ないのですが、今日は職場にあった「文房具56話」を読み返してみました。この本は、数年前、私の学校の入試問題として、その一部を採用させていただいたものです。入試問題に載せる文章というのは、作問者の趣味や主張が色濃く反映するものです。私もいろいろな思い入れで、この文章を選びました。
 あらためて読んでみまして、ああ、私の文章のお手本はこの方の文章だと感じました。串田孫一さんと赤瀬川原平さんの文章。このお二方の、洒脱な、そして軽妙な文章、ものの見方。とうていお二方には及ぶべくもありませんが、それらがバッソ・オスティナートとして私の中に流れているのは確かです。その上で美しい旋律を奏でられたらいいのですが。才能がなく、残念です。
 この本は、串田さんの串田さんらしさがよく表れている作品です。文房具という身近なモノたちを、愛情のこもったまなざしで見つめ、実にさりげない文章をもって、新しい日常的時間の主役として登場させています。そう、日常的な時間や空間を切り取って、しかし非日常的な風景を描く。赤瀬川さんにも共通した感性ですね。非日常でありながら、誰もがうなずける心の景色。深層真理とでもいうべきモノの発掘ですね。
 串田さんの文章の美しさとは何なのか。言葉と音楽、絵画との関係はどういうものなのか。受験に失敗し、第一志望であった理科ではなく国語の教員を目指すことになった大学生の私は、言語美学という分野に興味を持ちました。しかし、どのセンセイにも一笑に付され夢は叶いませんでした。実は今でも、そのことが心にひっかかっています。今、串田さんの文章を読み返してみれば、その点に関しても、新しい考えが浮かびそうな気がします。
 ご冥福を祈り、感謝の意も込めまして、地下書庫に眠っている串田さんの著書を、再び手に取ってみたいと思います。

Amazon 文房具56話

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