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2005.06.24

『コレルリ ヴァイオリン・ソナタ集 作品5』 ガッティ他

Corelli: Sonatas, Op 5(Arcangelo Corelli) Enrico Gatti (Violin); Gaetano Nasillo (Cello); Guido Morini (Harpsichord)
gatti_corelli_sonatas 昨日の「江戸の音」とともに、森洋子さんからお借りしたのがこのCD。今やヨーロッパを代表するバロック・ヴァイオリニストであるエンリコ・ガッティが、満を持して臨んだ聖典コレルリ作品5です。
 この曲集は、シンプルかつ極限まで洗練されているため、バロック・ヴァイオリニストのみならず、通奏低音奏者にとっても、その音楽家としてのセンスを問われる非常に厳しい作品とも言えます。一方で、バロックのエッセンスを常に感じながら演奏する悦びもまた、他に比類ないものがあります。まさに聖典と言うべきですね。
 以前マンゼの演奏をおススメしましたね。ちょっと(かなり)やりすぎの感がありましたが、新しさと言う面では成功しているアプローチでした。勇気あるなあ、という感じ。まあ勇気も才能の一つですからね。
 さて、大御所ガッティさんはこの聖典をどう料理したのでしょう。結論から言いますと、非常に正統的でした。正統とは何かというのは難しい問題ですけれど、つまりマンゼさんとは逆のアプローチ、いやアプローチが逆というのではなく、聖典に臨む気持ちが逆なのかもしれません。あるいは敬意の質が違うというか。
 その証左の一つとして、装飾音の扱いがあります。マンゼはほとんど自らのオリジナル装飾を施しています。ガッティは教会ソナタに関しては、当時出版されたものをそのまま利用、室内ソナタは彼自身の創作だと思われますが、それもかなりオーソドックスなもの。当時の文献やら何やらをよく研究された上でのアプローチなのでしょう。私はその点、非常に好感を持ちました。テンポなども含めた様式感の確かさ、それが与える安心感はピカイチでしょう。
 正直、オーソドックスすぎて刺激は少なめ。ふだん刺激や過激を愛する私にはちょっと物足りないか、というとそういうわけでもありません。それはやはりコレルリだからですね。特別な存在です。弾いたり聴いたりするこちらを純化する力があります。そういう作曲家って、そうそういませんよね。だからやっぱり聖典です。
 何度も書いていますが、演奏者が作品との間に新しい縁を作っていくことの難しさですね。バッハはもう、ほとんど抽象的でこちらが入り込む余地をあえて設けていません。そういう意味で特別です。コレルリはその点、はいどうぞ、という感じでこちらに迫ってくる。それもものすごく純度の高い作品を提示してくる。だから演奏する方はかなり辛いわけです。マンゼみたいなやり方も受け入れますけれど、結局マンゼ側の負けがはっきりするだけの結末。そういう意味で、ガッティさんの縁の創造はかなり理想に近いと思います。普遍性を獲得する可能性大いにありです。
 ところで、いちおうバロック・ヴァイオリンを弾く者のはしくれとして、ちょっと違和感を覚えるのは、ガッティさんの楽器の音色です。これはほとんど個人的趣味の問題であると解されますが、どうも潤いに欠けるような気がするのです。どの録音を聴いても、その感がぬぐえません。ヴァイオリンってもっと色っぽいと思っているのですが。小悪魔的な魅力に乏しいと感じるのは私だけなんでしょうか。やっぱり趣味の問題ですかね。まあ、それこそコレルリには、これでいいのかもしれません。聖典に悪魔じゃあね。

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コメント

ガッティのコレッリの録音、トリオ・ソナタのものを二枚持っていますが、ヴァイオリン・ソロのOp.5もださないものかと以前思っていました。結局、中古屋で安くみつけたクイケンのものを買って聴いていました。
ビオンディの録音したヴェラチー二のソナタ集のディスクがでていて、おっと思って購入したらその後すぐにガッティの録音が遅れて発売されてしまったと思ったことがあります。ヴェラチーニのソナタは「アカデミックな」という名前がついていたのでガッティのほうがあっていると感じたからです。

投稿: 龍川順 | 2005.06.27 23:21

龍川さん、おはようございます。
私にとってはクイケンのものが至上ですねえ。
あれはクイケンの録音の中でも特別だと思います(全曲でないのが残念)。
ヴェラチーニのアカデミックも、私はガッティよりビオンディの方が好みでした。
ヴェラチーニこそ悪魔的な魅力が必要だと思いますし。
とは言っても、例の有名なイ短調(かな?)しか聴いてませんが。
今度ぜひ貸して下さい。
それにしても、あの「アカデミック」 って何なんでしょ。
私にはギャグとしか思えません…。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2005.06.28 08:07

コレルリと言われて、ラフォリアを弾いていた頃の事を思い出したので少し。。
と言ってもそんなに書くことは無いです。。
才能教育で前期高等科の卒業曲だったかな?そんなわけで毎日練習していたなぁ。。なんて事ももう15年以上昔なんですね。。
あの頃はソラで弾けましたが今じゃ確実に譜面が無いと弾けません。。。。
って前に座っている先生に知られたら弾け!とか言われそうなので御内密に。。。(笑)

投稿: たこたよ | 2005.06.28 17:22

あれまあ、たこたよさん、ヴァイオリンなさってたんですか!
私もちょっとだけ才能に行ったことがありました。
もちろんフォリアも弾きました。あの鈴木ヴァージョンはかなり難しいんですよね。
オリジナルの方が楽譜上は楽チンです。あくまで楽譜の上での話ですけど。
これは前にすわっている先生に言わなきゃ!
ぜったい弾け!って命令が下りますな。覚悟しといて下さい(笑)。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2005.06.28 18:08

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