『宇宙のひとかけらとして生きる−現代宇宙論の視座から人間を考える−』 佐治晴夫 (正眼短期大学創立四十周年記念論集「禅と人間」)
先日お世話になりました正眼寺さんには、短大が併設されています。我が校の卒業生も何人かお世話になっております。その短大の40周年記念に発刊された論集です。
この本はみなさんにとっては入手困難なレア物ですね。しかし、内容は大変充実しております。本日のおススメである佐治さんの感動的なエッセイをはじめ、古田紹欽先生や松田紹典先生の論考、千宗室さんと谷耕月老師の対談など、そちら関係に興味のある人にとっては、たまらない内容です。こんな私でも結構楽しめました。いや勉強になりました。
佐治晴夫さんは玉川大学の先生、理論物理学や数学がご専門です。素粒子や宇宙論に関する著書も多くありますし、一方で、科学と宗教や芸術の関係についても言及してきた方です。最近では養老孟司先生との対談が話題になりました。
その佐治先生の寄稿が本当に感動的でした。「私は生きている。何のために?そして何がそうさせているのか」で始まるこのエッセイ。掉尾は「生きているということ、それは宇宙開闢のエネルギーによって、宇宙開闢の記憶をたどりながら、生かされているということである」という究極の答えで締められています。そして、その間に何が書かれているかというと、まさに科学者らしく(当時…10年前の)最新の科学的成果を挙げられ、それが例えば般若心経の「色即是空」「空即是色」にどう近づいていくかということ、あるいは美の一回性、生命の本質(存在様式)である「持続」の持つ意味にまで話題が及んでいきます。文中には、グレン・グールド、宮沢賢治の名前も登場します(ウルトラマンも!)。
非常にバランスのとれた方ですね。好感持てます。アカデミックな世界に入る前は、企業で歴史に残る製品開発をなさっていたわけですから、その感はさらに強まりますね。かっこいいなあ。
そして、やはり科学が突き詰められていくと、宗教というか神や仏に近づいていく、ということ。科学は世界の仕組みを明らかにする性質のものですから、それが明らかにされていけばいくほど、私たちはただ驚嘆してたたずむことになります。そうして明らかになっていく宇宙のそして自己の複雑かつ精巧なデザイン。それをお釈迦様はとっくの昔に知った。おそるべきことですね。
それを実感するには、やはり何かに長期間打ち込まなければならないようです。適当ないい加減な生活をしていては一生わからないでしょう。ただ、一生懸命にやるべきなのです。別に出家しなくとも禅は可能です。その時の行動に、そして思索に「なりきる」。ぜひそうありたいものです。
デカルトは、9年間疑い続けた。そして、「われ思う、故にわれ在り(cogito ergo sum)」にたどりつきました。達磨大師は、9年間壁に向かって坐り続け、そして大悟しました。二人の結論は全く逆であるとも言えますが、実は全く同じであるとも言えます。たぶん、自己と宇宙が一体不可分の関係になった瞬間なのでしょう。不二。
そういえば、正眼寺の開祖慧玄さんは9年間伊深の地で自らの光を消したのでした。もし、私が9年間何かに懸命になったら、いったい何がわかるのでしょう。そんなことを考えさせられる、佐治さんの素晴らしい文章でした。
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