『鳥獣人物戯画』と『無伴奏チェロ組曲』
最近のBShiネタです。トンデモな発見多数。無伴奏チェロ組曲は鳥獣人物戯画だった…(?)。
両番組とも再放送のようでしたが、私は初めて観ました。
まずは『アニメのルーツ・鳥獣人物戯画の不思議ワールド』。教科書にそのほんの一部が紹介され、なんとなくスゴイものだと思われている国宝。その巻物が、現代の美術、アニメ、マンガ、CGなどの視点から見ると、いかにとんでもなく斬新で、とんでもなく面白く、とんでもなくハイテク(超絶技巧)なシロモノであるかを考証する番組でありました。
いやはや、ワタクシも、これほどだとは全く知りませんでした。学校教育(教科書&テスト)の弊害ですな。特に、高畑勲さんの解説には目からウロコが落ちました。現代の感性がようやく800年前に追いついたってことですね。詳しくはこちらをどうぞ。高畑さんの力作です。高畑さんもすごいわ。
さて、次は『鈴木秀美・バッハ無伴奏チェロ組曲全曲演奏会』です。もちろんバロック・チェロでの演奏です。ライヴらしい緊張感あふれる(音程の不安定さも含めて)素晴らしい演奏会でしたね。最近なんちゃってバロック・チェロを始めた私にとっては、フィンガリングとボウイングを学ぶ格好の教材でもあります。久々にほぼ全曲を続けて聴きましたけど、この曲やっぱり変ですねえ。さすがチェロの聖書…?
というわけで、冒頭のトンデモ発言に戻りましょう。
鳥獣も無伴奏も国宝とか聖書とか呼ばれて、作品として幸せなんでしょうかねえ。ホントはもっとぶっとんだトンデモ作品なのでは、ということです。鳥獣も無伴奏も、その世界ではかなり変な存在です。発想自体がおかしい。それはおかしいのであって、別にトバもバッハも国宝やら聖書やらを書こうとしたわけではない。どちらかというと、両方ともパロディーの精神だと思うのですが。
鳥獣は言うまでもありません。無伴奏も笑えますよね。チェロひとつで舞曲を一生懸命演奏する。踊り手はいない。いても踊れない。楽しく弾きたくても難しすぎてシカメっ面になっちゃう。やっぱりバロック時代ですから。それ自体に演劇性があると思います。パントマイムみたいな。
あとですねえ、制約と想像力の問題です。鳥獣の、例えば有名なウサギとカエルの相撲のシーン。とっくみあったシーンのすぐ横に、ふっとばされたウサギが描かれています。異時同図。高畑さんも言及していましたが、我々はその間に描かれていないコマを想像して補います。結果として動画となる。私の考えでは、記憶とはまさにそういうものなのですが。静止画の集合。で、バッハの方も、音楽がおわかりの方には自明なことでしょう、書かれていない音が暗示されます。楽器及び演奏上の制約から来る空白に、私たちはいろいろな音を補います。ただ、こうした受け取り手の想像力は、あくまで経験的、恣意的なものであり、作者の意図と同じものになるとは限りません。それが、以前にも書いた「縁」の創造の難しさと面白さなのでしょう。
いずれにせよ、こうした空白の可能性こそが、時代とともに縁を多く生み出し、作品自体の価値を高めていくのですね。そういう意味じゃ、やっぱり国宝であり、聖書なのか。ガクッ。
Amazon 鈴木秀美・無伴奏チェロ組曲
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コメント
おいらもトラックバック打たせて貰いました(^^
最近ブログ始めたばかりなんで、わからない事だらけです。
それはそうとして、『鳥獣人物戯画』と『無伴奏チェロ組曲』
楽しく読ませて貰いました。
よく考えるとほんと変ですよね。
バッハ、無伴奏。
えらいかっこいいんだけど、
あれで舞曲っていわれても踊りづらいし、
なんだか楽しいんだか、暗いんだかわからないし。
演奏してる方は必死だし。
バッハの時代のパロディなのかもしれないですね。
『鳥獣人物戯画』にも興味を持ちました。
古い4コマ漫画の世界なのかもって思ったりして。
「十二世紀のアニメーション」図書館にあるようなので、
借りてきま~す!
投稿: おさかな | 2005.06.21 14:42
トラバありがとう!どんどん打って下さいね。
「十二世紀のアニメーション」はホント面白い本です。
日本人って大昔からオタクなんですよ。
オタクと言えば、バッハもかなりなオタクですな。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2005.06.21 15:33