『世界思想の源泉』 木村鷹太郎 (香蘭社)
またまた出ましたキムタカのレアもの。以前紹介した『希臘羅馬神話』も、トンデモないシロモノでしたが、こっちはもっとすごい!?ウチの祖父はいったい何を考えてこれらの本を買ったのでしょう。いちおう高校の社会科の教員だったんですけど。
というわけで、一昨日、久々に焼津の祖母宅を訪れ、亡き祖父の書棚を漁っておりましたら、こ、こんなものが…。昭和3年刊の初版本のようです。う〜む、生前の祖父とはこんなようなことに関して、全く話をしませんでした。実はその他の蔵書も、なかなかのマニアックぶりで、私のセンサーに引っかかるもの多数、私のトンデモ癖のようなものは、実は祖父から受け継いだものだったようです。感無量。
『希臘羅馬神話』の方にも書きましたけれど、木村鷹太郎のいわゆる「新史学」というヤツの基本にあるのは、徹底的な中華思想です。中華と言ってももちろん中国のことではありませんよ。自国中心、自国優越史観です。
ちょっと調べて驚いたのですが、キムタカさんは、明治学院大学をクビになって東京帝国大学に入り直し、卒業後は、抜群の英語力を生かしてバイロンやプラトン全集を翻訳したり、与謝野鉄幹・晶子の媒酌人をしたりと、いちおうフツウの世界でもそれなりの評価を得た人なんですね。それが、なにかに取り憑かれたかのように、新史学という妄想世界に暴走しはじめるのです。そんなステキな暴走の成れの果て、晩年に著したのがこの『世界思想の源泉』です。
で、内容ですが、とても全部読めません。頭がおかしくなってきます。最初の内は面白くて腹を抱えながら読んでいられるのですが、じきに頭を抱えるようになってしまいます。世界史に名だたる西洋の偉大な思想家たちは、実は全て日本人であり、その名や思想が西伝して現在に伝わっているのだ、それは疑いようがない、疑う者は我の証明を見よ、どうだ、日本人よ、自信を持ちなさい、世界の中心は日本なのだ!…終始こんな調子です。
目次を見るだけで興奮しますよ、きっと。ここでは、その一部、有名どころを抜粋しましょう。
アナクシメネース=最澄
ヘラクレイトス=空海
ピタゴラス=円仁
ソークラテース=日蓮
アリストテレース=山鹿素行
ピルロー=兼好
えっ?もう頭痛いって?だめですよ。キムタカの証明を読んでからじゃないと。
彼の証明は、基本的に全て語呂合わせです。次の抜粋を読んで、あなたは、腹と頭と、どちらを抱える?
『元來耶蘇(教)とはイエス、イヤス、即ち「癒やす」、「醫やす」、「安す」を意味する日本語同語であり、クリスト(基督)とは實は「クスリスト」即ち「藥者」醫者のことであるから、耶蘇は人の心身を醫やすこと、又た飢を醫やすことの意味で自分をメシヤ(飯者)と云うて居る』
…すばらしすぎですよ。やられた!って感じ。赤塚不二夫なら言いそうでしょ。天才ですよ、キムタカ。
結論はトンデモないことになってますが、日本文化、西洋文化についての知識はものすごい。こじつけするにしても、よく勉強してないとできません。ものすごい情報処理能力と記憶力であることはたしかです。そして、ものすごい意味付けの結果ナンセンスになっている。ちょっと好きですね。こういう人。
時代が時代でしたから、愛国心と危機感によって病気が助長されてしまったのだと思いますね。現代に生まれていたら、どうなっているでしょう。失礼ですけれど、私は大野晋さんに似たような才能を感じますね(好きなんですよ、大野センセイ)。
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