『萌えキャラを描こう!』 しらゆき昭士郎, 西E田, じじ (銀河出版)
また部外者の戯れ言で申し訳ないのですが、これにはかなりビックリしました。これは記号論の本ですよ。はずかしながら感動すらしました。
「萌え」の分析は、今私の中でのブームになっています。文化としての「萌え」、言葉としての「萌え」、いずれにせよ、少なくとも奈良時代から連綿と続いているように感じるからです。日本文化の基底に迫るには、避けて通れない部分だと思います。
たとえば、枕草子における「をかし」。これは明らかに「萌え〜」ですよ。「趣がある」なんて訳すからダメなんだって。その点、橋本治さんが「ステキ」と訳したのは、彼ならではの先見の明と言えます。ただ、その頃は残念ながら「萌え」という言葉がなかった。今の私が「オタク語訳枕草子」を書くとしたら(ってなんじゃそりゃ)、「春はあけぼのが萌え〜」ってしますね。だって、「春はあけぼの」って、かなりマニアックでしょ。「春は宵」がマジョリティーですから。もうかなりオタク文化入ってます。しかも女流のオタクだあ。
まあ、そんなこんなで、最近は「オタク」「萌え」が研究対象として私を魅了しているのです。
今日、千葉大に入学した卒業生が遊びに来ました。彼は自他共に認めるアニメ&ゲームファン、すなわちオタクです。当然のごとく「アニ研」に入部したそうです。そして、彼が持ってきた本、それはアニ研のテキストのようなものらしいのですが、その素晴らしさに感動してしまいました。はい。
内容はタイトル「萌えキャラを描こう」そのまんまです。し、しかし、その深さたるや、完全に芸術としての絵の描き方、観賞法と同じレベルです。いや、記号論的にはそれ以上の鮮明さがありました。
体全体のバランスや顔の構成についてはもちろん、髪の毛のはねる方向や身につけたグッズのあり方、しゃがむ角度から周囲の登場人物にいたるまで、それぞれが、どんな性格や感情を表すのか、実に詳細に解説されているのです。これは本当に見事な記号論です。
ある程度、こういう世界の深さ、厳しさのようなものは予想していました。プロの世界のすさまじさですね。その世界の方々からすれば、当たり前のことでしょうけれども、私としては、こうやって受け手である私たちの中に「キャラクター」が産み出され、私たちの「感情」も作り出されるのだということに感動しましたね。あらゆる芸術、あるいは商業的なモノは、こういった記号性をはらんでいるわけですが、それが非常に強調され、デフォルメされた形で表れているのが、こうした「萌え」系マンガやアニメの世界なのですね。
実は、同僚および教え子たちと、あるアイデアをもって、3000億円とも言われる「萌え」市場に殴り込みをかけよう、なんて妄想していたのですが、これはちょっとシロウトには無理ですな。プロの世界を知ると、もうお手上げです。でも、まだあきらめませんよ。一獲千金のために勉強しますか。
Amazon 萌えキャラを描こう
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コメント
はじめまして、キムといいます。
こういう本あるんですね。
自分もオリジナルで漫画かいてたりしますが、やはりネットで見てもらうためには「萌え」系を描かないとだめなのかな、と。
ちょっと勉強さしてもらいます。
投稿: キム | 2005.05.06 18:40
キムさん、早速のコメントありがとうございます。
私もこんな本があるなんて知りませんでした。
かなり勉強になりますよ。
「萌え」を意識しなくても、純粋に美しい絵が満載でした。
私も買おうと思います。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2005.05.06 19:11
はじめまして。この本の名前で検索していたら、たどりつきました。素晴らしい考察に感動しました。誠に勝手ながら、私のブログでも、こちらのブログを少し紹介させていただきました。大変失礼しました。
でも、「萌え」パワーってスゴイですね。ここまでやるとかえって健全のような気もします・・・。では、失礼しました。
投稿: キムラヤからの伝言板 | 2005.06.07 22:47
キムラヤさんのご主人様、コメントありがとうございます。
そして、紹介までしていただいて、すみません。
いつものように、思いつきで書いてしまったこの記事。
なんか、いろいろな方(含む著者ご自身)に読んでいただけたようで、うれしいやら恥ずかしいやら。
ただ、「萌え」=日本人の伝統的な心情、ということに関しては、かなり考えがまとまりつつあります。
もう少ししましたら、本でも書こうかなどと真剣に考えています。
その時は平積みよろしくお願いします(笑)。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2005.06.09 12:41