『変わる富士山測候所』 江戸川大学 土器屋由紀子ゼミ (春風社)
つい最近、ちょっと問題もありましたけど、相変わらずの人気を誇る「プロジェクトX 挑戦者たち」。欠かさず見るというわけではありませんが、私もファンの一人です。自分も仕事頑張ろう、子供たちに誇れる仕事をしよう、と思います(寝る前までは)。そして、私がこの番組を見て、こぶしを握りしめ、涙を流していると、カミさんは不機嫌になります。なぜでしょう。世のほかの女性たちもそうなんでしょうか。
そうです。この番組では、たいてい主役は男。女は影で苦労する役回りです。だから、納得いかないと。なるほど。そりゃそうだ、とも言える。でも、だからってそんなに怒んなくても。
先週は珍しく女性が主役でしたね。沖縄の公衆衛生看護婦さん。カミさんは見ていませんでしたが。そして、微妙に感情移入できない男の私がいたことを白状しましょう。わかっていても、どうしてもだめなんです。燃えてこないのです。
これは仕方ないことでしょう。男の本能です。女は子を産むということによって永遠性を得る可能性を持っています。男はハナからそんな可能性はない。材料提供はできますが、それだけでは満足しないのです。だから、何かを残したがる。仕事したがる。できるかできないかは別として、そういう欲求というか、焦りがあるんですよね。最近私が考えている「こと化」の願望です。「ものがたり」の欲求です。これについては今まとめ中ですので、いずれまた。
さて、そんな燃える男のプロジェクトX、その記念すべき第一回に放送されたのが、「巨大台風から日本を守れ」〜富士山頂・男たちは命をかけた〜でした。それこそ、番組として紹介されなければ全く知らずに終わってしまったような、無数の無名の男たちの壮絶な戦いに、鳥肌を立てました。
しかし、なんでしょうね。やはり今回の問題もそうですが、慣れてくると演出が鼻につくこともある。ドキュメントなのかドラマなのか、その虚実皮膜の間におけるさじ加減がこの番組の魅力なのでしょうが、いったいどこまでが事実なのだろうか、ちょっと気になることも出てきたりします。
で、今回、父からこの本を借り受けまして、なるほど第一回はほとんどドキュメントであるとわかりました。この本は、衛星に気象観測の任務を譲り、無人化された富士山測候所の、これまでの歴史とこれからのあるべき姿を、多方面から見直すものです。歴史についてはプロジェクトXなどで紹介されている通りです。今後のあり方については、お読みいただければよいのですが、例えば大気化学の立場からすると、富士山頂は非常に優れたロケーションであるとのことです。
そのような、なかなか興味深い本であったわけですけれど、何と言っても圧巻だったのは、プロジェクトXでも主役をお務めになられた伊藤庄助さんのインタビューです。伊藤さんはまさに富士山測候所プロジェクトの中心人物、気象レーダー設置を総指揮された方。何の演出もない一つ一つの言葉が実に重い重い。
こんなマンガも買ってみたのですが、やはり事実を伝えるには、本人の裸の言葉、それも文字というメディアを通じての言葉に優るものはないと、図らずも再認識させられました。
ホンモノの言葉は力強く美しい。
「対話をしながら自然を味方につけてやっていく」
「物事の勉強や研究は、思い込みで判断していることが多く、地に足のついたことは知らないままで終わっている。ところが、そういう知識が自然には通用しない。体験を通して理解しないと命を失うことになる」
「自然に叩きのめされたことで、体を通して多くのことを学ぶことができた」
このインタビューだけでも買いです(その他もなかなか有益)。
Amazon 変わる富士山測候所
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