『楽しむということ』 谷川俊太郎
今年度は、週26時間の授業担当という超過密スケジュール。さらに朝は毎日0校時がありますから、もう朝から晩まで言葉漬けです。それだけ出会いがあるわけですから、ありがたいと思ってやっております。
0校時では、毎日センター試験の過去問や予想問題を解きます。今日は、谷川俊太郎さんの『楽しむということ』という文章による問題でした。私はもう何回目かのはずですが、今日はその内容が妙にリアルに胸に響きまして、問題を解くのも忘れて考え込んでしまいました。
谷川俊太郎さん。もちろん、私にとってのカリスマの一人です。詩はもちろんのこと、こうしたエッセイも実に素晴らしい。平易で深い文章というのは、そうそう書けるものではありませんからね。
ものすごく乱暴に要約すると、次のようになります。
「かつての日本では、楽しむことはタブー視されていた。筆者自身も、楽しむことが精神よりも肉体に結びついていると感じ、淫靡なうしろめたさを抱いていた。青春期にあえて現在に生きる楽しさを謳歌したこともあったが、感覚の全的な解放に対するおそれもあった。今の日本は楽しむことに事欠かないが、感覚の楽しみが精神の豊かさにつながっていない。楽しむことのできぬ精神はひよわだ。楽しむことを許さない文化は未熟だ。楽しみは孤独なものだ。楽しさの責任は自分がとらねばならない。そこに楽しさの深淵がある」
こうしてしまうと、ぜんぜん谷川さんの文章じゃないですね。生きた文体というのがあるんですよね。言葉を操れる人がいるんです。
谷川さんは、楽しみが孤独であると語る前に、「悲しみや苦しみにもしばしば自己憐憫が伴い、そこでは私たちは互いに他と甘えあえる」と書いています。なるほど、他人の楽しみに同情するのは難しい。他人の楽しみに対して、人は嫉妬心こそ抱け、共感はし難い。不思議なことです。
また、個別の楽しみは必ず減衰し、それがゼロに近づくと虚しさを残します。それが古代語における「もの」(の一つの意味)であると、最近の私は考えているのですが、まあ、それはいつかどこかで書きましょう。
ちょっと飛躍しますが、この5年間、私たち家族に楽しみを与えてくれたある「もの」が、「もの」の宿命に則り、その役目を終えようとしています。
それは自動車です。いつかも紹介しましたフィアットのプントです。それこそ、人からは「よくイタ車なんて乗るねえ。よく壊れるでしょ」なんて具合に、いらぬ同情はされますが、楽しみの共感はされなかった。しかし、私はこの楽しみの責任は自分でとってきました。
しかし、いかんせん、ファミリーカーとしてはやや不安になってきましたので、涙をのんで買い替えを決意しました。
と、思っていたら、奇遇ですなあ。同じ楽しみにはまっている人がいるではありませんか。なんとまあ、谷川俊太郎さんその方でした。プント3台目だそうです。私と違って買い替えるつもりはないと。
谷川さん、プントの詩を書いています。その中の一節。
「私に生きる歓びとは何かを教える」
楽しみとは、まさに「生きる歓び」を感じることでしょう。「よろこび」に「歓び」の漢字を使ったことに大いに共感いたします。
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コメント
>平易で深い文章というのは、そうそう書けるものではありませんからね。
私もそう思います。敬愛する星新一先生、川端康成先生の文章を、自分なりに目指しているのですが、どうしてもバタバタしてしまいます。
大村はま先生の文章にもクラクラしました。語彙の重要性を説きながら、文内には一切、難しい言葉も過剰な表現もありません。叡智が文章を研ぎ澄ます、という重みを、うっかり無防備なところに受けてしまい、しばらく腰抜け状態の私でした。
イタ車、いいですねぇ。フィアットというと、ルパン三世の乗っていた 500 の大ファンです。ちなみに車のデザインで最高傑作だと思っているのは、ディーノ。実物を見るたびにエクスタシー.......、もう完全にフェチですね。(笑)
(GT ロマンという漫画をご存じですか?)
投稿: LUKE | 2005.04.20 13:05
LUKEさん、こんにちは。
こちら、今昼休みです。
大村先生の文章には、独特の香りがあります。
先生のそばにいる時と同じ香りがするのです。
不思議です。
それにしても、ディーノとはまたエッチですねえ。
いや、あれはエッチすぎますよ。美しさを超えてます。
って実物は見たことありません。
GTロマンもBSマンガ夜話で見ただけですね。
読んでみたいと思います。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2005.04.20 13:31