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2005.04.14

『教養主義の没落 変わりゆくエリート学生文化』 竹内洋 (中公新書)

4121017048 教養がないより、ある方が良かった時代は、ずいぶんと昔に終わっています。いまや、教養はジャマでさえあるようです。
 この本は、明治以来、日本の文化をある面から支えたと言える「教養主義」の変遷を、興味深い分析とともに振り返る内容です。そして、滅んでゆくそれへのレクイエムとなっています。
 「教養」って何でしょうねえ。これも集団気分だったのでしょうか。本を読んで、ちょっと悩んでみて、すねてみたりする。自分はほかとは違うよ、ってことを示したかった。でも、結局それは異化ではなく同化だったような気もします。
 筆者は、農村から出てきた文学部の学生に注目します。彼らこそが教養主義者たちであり、そして彼らが教師になって(教師にしかなれなくて)、教養の再生産をする。なるほどね。実は教養とは農村という原日本へのカウンターカルチャーだったわけですか。そして、農村の都市化によって、彼らは滅んでいく…。いや、もう滅んだと。
 筆者は教養主義は復活しないだろうと述べています。そうかもしれません。しかし、どうなんでしょう。総大衆化した日本人は、今も教養を振り回しているんじゃないんですか。違うかなあ。
 教養が滅んだのではなく、教養という言葉が滅んだだけではないでしょうか。つまり、言葉のブームが去ったと。
 教養が、さっき書いたように集団気分であり、筆者が言うような性質のものだとしたら、永劫なくなりませんよ。農村の都市コンプレックスはなくなるとしましょう。しかし、次には違った面での格差が発見されますよ。なぜなら、人間は、人の下にいるよりは、絶対に上にいたいものだから。そういうエリート意識、優等感というものを持つ人が絶えない限り、○○コンプレックスというのはなくなりません。劣等あっての優等ではなく、優等あっての劣等なのです。
 たとえば、今や空前の英語教育ブーム。まったくアホらしいとしか言えません(韓国よりはましか)。一部の優等生の存在が、多数の劣等生を生み、劣等生は自ら気分を作り出していく。不安な気分になって、そして、不安を払拭するための努力に、自らのアイデンティティーを見出す。そして、集団気分は醸成される。その集団気分に浸っていることが、なんとまあ、実は安心につながったりするわけです。因果なこっちゃ。
 筆者は、教養を崩壊させた張本人として、ビートたけしを挙げています。これは卓見ですね。そういうスケールの人間が、ドッカーンとやらないと、生ぬるい集団気分は吹っ飛びませんよ。
 私は、文学部しかない田舎の小さな大学で学び、文学士となって、当然のように教師になりました。まさに、教養主義の申し子のような経歴の持ち主です。このブログも、結局のところ○○コンプレックスを振り回して悦に入っているわけで、そういう意味では、私も立派な大衆文化の継承者ということになるのでしょう。

Amazon 教養主義の没落―変わりゆくエリート学生文化

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コメント

はじめまして。お書きになっておられる書籍の話題(書評や感想)をいくつか拝読致しました。構造主義について大半の人には用がない思想であるてな言明があり、まあ、そうかもしれないなあ、と思いました。
ところで、この『教養主義の没落』のエントリーに昨日TBをさせていただいたのですが、pingがコントロールパネルに残っていたらしく、二重に送信になってしまいました。TBスパムみたいで申し訳ありません。お手数をおかけしますが、お手すきの折に一本を削除いただければ幸いです。
では今後、よろしくお願い致します。

投稿: かわうそ亭 | 2005.06.26 10:27

かわうそ亭さん、はじめまして。
TBは一つ消しときました。
さて、この本ですが、すっかり内容を忘れていました。
この日もかなりいい加減に読んだようです(汗)。
かわうそ亭さんの記事を読んで、再び考えさせられましたよ。
ありがとうございました。
それにしても、かわうそ亭の御主人、なかなかいい読書されてますねえ。見習わなきゃ。
じっくり書評を読ませていただきます。
では、今後ともよろしくお願いいたします。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2005.06.27 11:07

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『教養主義の没落』竹内洋(中公新書/2003)は、たいへん興味深い本だった。6月7日に書いた「誰が教養を殺したか(承前)」の記事に対して、我善坊さんとおっしゃる方からコメントをいただき、あわせて本書をご紹介いただいた。あらためてお礼を申し上げます。なるほどなあ、と納得する内容でした。「ここで教養主義... [続きを読む]

受信: 2005.06.25 22:18

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