『バカ田大学なのだ!?』〜天才バカボンより 赤塚不二夫 (ちくま文庫)
「♪都の西北、ワセダのとなり…」
我が家のバイブル「天才バカボン」。困った時のバカボン頼み。悩み事が発生したら即バカボンの全集をひもときます。そこにはめくるめく神の世界が。バカボンのパパの言霊により、世界は解体され、そして再構築される。荒ぶる神による癒しです。うん、完全に神道の世界なのだ。実際、ウチの神棚にはバカボンのパパが奉祀されております。
というわけで、文庫版全集も持っているのですが、たまにはこういうベスト版もいいものですよ。いやこれはオムニバス版かな。
バカボンの登場人物の中でも、バカ田大学のOBたちは格別濃いですよね。その方々が総出演でバカのエキスを放出しまくるわけですから、そりゃ面白くないわけはありません。こういうキャラを考えつくだけでも、赤塚センセイは相当のパカ天才です。
今回読み直してみて感じたのですが、赤塚センセイの言語感覚というのは、並ではないですね。同音や類似音による遊びの才能はケタはずれです。押韻や掛け詞、ダジャレなどは、音韻数の少ない日本語にとって伝統的な修辞法です。そこに日本独特の言霊が宿る。音魂と言ってもいいでしょう。
近現代において、そういうモノの復権に一役買ったのが、漫画を含む「笑い」の世界でありました。そして、その集大成となったのが「霊界物語」であり、「天才バカボン」であったわけです。つまり、それらはソシュール&丸山的に言うなら、ラング化されないランガージュ、深層のロゴス(パトス)の発掘だったわけです。発掘ではないな。そんな意志はない。出口王仁三郎や赤塚不二夫を媒体にして発現、噴出してしまったのです。
以前、フランス人に「天才バカボン」の英語版を読んでもらったのですが、全く理解できなかったようです。彼らにとってのラング化されないランガージュは、もうすでに無意識の彼方に葬り去られているのでしょう。表層のロゴスには意識的なストーリーがあります。しかし、ここには、ストーリーも辻褄も予定調和も脈絡も論理性も因果関係も何もない。カオスです。カオスは恐れ忌むべき対象でこそあれ、信仰や笑いの対象には間違ってもならないのでしょう。
私は日本人ですので、やっぱりこういう世界に笑っちゃいます。たしかに理解はできませんが、理解できないことに安心します。カオスがコスモスを凌駕する世界、凌駕はするけれども駆逐はしないんですよ、こういう言わば複雑系のような世界こそ、自然だと思うのですが。
なんて、理屈を語っても意味はありません。バカボンのパパと彼の同級生たちが奏でる壮大な言霊を、全身で浴びればそれでよしです。平和な気持ちになれば、それでよろしい。
Amazon バカ田大学なのだ!?
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コメント
天才バカボン、傑作ですよね。
文庫版の発売を期に、私も全巻購入して読破しました。記憶にあった話しもありますが、当初の作品は意外と正当な手法が用いられており、「あれ?オチがある。」って感じでしたね。なんだか普通じゃんよ、と。突然シュールな展開になったのは、七味唐辛子工場の回からではないかと私は思っています。そこで何かを掴んでからは、吹っ切れたように繰り広げられる赤塚ワールド。
天才が新しい芸術的手法を生み出した瞬間を発見したような気がして、何となく嬉しかったです。
投稿: LUKE | 2005.03.24 21:45
LUKEさん、こにゃにゃちは。
バカボンワールドを共有できて嬉しい限りです。
言われてみると、たしかに七味唐辛子からかもしれませんね!
文庫版を読んでいくと、ホント、天才でも浮き沈みが結構ありますよね。
ウネってます。脈動してる。
そのあたりも含めて、全体が壮大な宇宙みたいな感じです。
やっぱりすごい…。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2005.03.25 12:58