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2005.03.07

うる星やつら 第76話 『決死の亜空間アルバイト』

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 再びうる星やつらネタです。20年遅れのマイブームです。土曜日に録画したものを見ました。
 『決死の亜空間アルバイト』…もうすでにお気づきの方もいらっしゃると思いますが、この作品、実にいろいろな問題をはらんでいます。これはかなりやばいでしょ。
 まず、作品の前半部分。これはもう、完全に1960年代70年代サブカルチャーへのオマージュになってます。明らかに何人かの作家を意識して作られていますね。
 まず、「つげ義春」。『ねじ式』を彷彿とさせる描写、表現がいくつか出てきます。
 また、亜空間に現れる少女の顔は、明らかに「つのだじろう」。あの『うしろの百太郎』顔です。
 全体の雰囲気としては「寺山修司」でしょうか。どこか『田園に死す』の空気が流れています。
 いずれも、60年代、70年代を代表するカルト作家ですね。私も高校、大学時代に大きな影響を受けたお三人さんです。
 うる星やつら76話が放送されたのは1982年ですから、まさにつげ義春が断筆(漫画を)していた頃。また、寺山は翌年5月に亡くなります。こうして、古き良き昭和が終焉に向かっていく時代でした。
 サブカルチャー自体、古くさくダサいものになりつつありました。暗い影も伴っていた高度経済成長はとっくに終わり、安定成長期という、なんとも悩みのないポップな雰囲気が世を覆い始めた頃です。そしてある意味、うる星やつらは、サブカルの後を継ぐオルタナティブカルチャー(結局はオタク文化なわけですが)を用意する重要な役割を果たしました。そのあたりが、とても象徴的です。
 オマージュにせよ、パロディーにせよ、サブカルの深く沈潜したどす黒い炎を、こういうノリで消化(消火・昇華)してしまう時代性に、ちょっと驚きます。今こうして、80年代も歴史として語られるようになると、それなりに60年代、70年代へのカウンターパワーがあったのだなあ、と感じられます。だからこそ、今面白いのでしょう。
 明らかに、寺山的、つげ的な「物語の意図的解体」の中で、あたるだけが浮いているように見えますが、実際には、あたるも持ち前の非日常的センスで、亜空間(夢の中の街)を堂々と闊歩しているのでした。現代の視点からだと意外に自然な光景に見えるわけです。
 さてさて、そんな風に時代が交錯しせめぎ合う前半を尻目に、後半は全く違った意味で問題を投げかけます。
 いいのでしょうか。よくNHKで放送したなあ。というか、よく当時こんなものをゴールデンに流したな。
 とにかく女湯でのセクシーショットの数々。はっきり言って素晴らしいの一言です。特に弁天…。あまりにすごすぎて、たぶんみんな前半のことを忘れてます。私は忘れました。
 それが、意図するところだったのか。単なる気まぐれなサービス精神なのか。全くわかりません。とにかく、爆発しまくりです。
 そして、最後にまた寺山ワールドが…。
「若さゆえ 銭の重みに 浮かばれず 湯船の底で 流す瀬(背)もなし」
 うまい!うますぎる。見事なエンディングです。感激しました。ここでまた、セクシードリームはどこかへ吹っ飛ぶ。名作だあ。
 ところで、もうすでに多くの人が指摘しているようですが、『千と千尋の神隠し』は、この作品に影響を受けたのではないでしょうか。亜空間の湯屋で物の怪たちのお世話をする。その他のシーンでも、あっ!と思う部分があります。
 こうして見てみると、時代が時代を懐かしみ、おちょくり、そして結局引き継いでいく、こういう歴史の仕組みが見えてきますね。意識しようとしまいと、確実に遺伝子は受け継がれているのでした。

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その他のうる星ネタはこちらでお読み下さい。

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コメント

 この作品は私も大好きで単行本も持っていましたが、アニメの方は、また違った魅力がありましたね。前回、庵主 様もご指摘の通り、押井守さんの回は TV 作品でも、一編の映画のように見応えがありました。(映画版の「ビューティフル・ドリーマー」という作品も凄まじかったです。)
 一時期マトリックスという映画のカメラワークが注目されましたが、押井さんのアニメに親しんでいた私には、新鮮味が微塵にも感じられず、非常に残念な思いをしました。(笑)


PS. 当方のブログにてわざわざコメントして頂き、誠にありがとうございます。洒落の分かる方の存在は、どの場でも空気を和ませるものですね。(ちなみに、うちの嫁も庵主 様と同じく教師(小学校ですが)をしています。)

ps. キース・ジャレットのケルン・コンサートは私も大好きな作品です。
 

投稿: LUKE | 2005.03.08 16:03

LUKEさん、こちらこそコメントありがとうございます。
私はうる星やつら初心者なのですが、たしかにいろいろな意味で斬新ですね。
歴史に名を残すものはやっぱり「すごい」。
もちろんケルン・コンサートも。

psいやいや、送信ボタン押すの勇気がいったんですよ。
 良かった〜、それこそ洒落が分かってくれて…。ホッ。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2005.03.08 16:20

「若さゆえ 銭の重みに 浮かばれず 湯船の底で 流す瀬(背)もなし」
は、うる星やつらの原作者 高橋さんの創作ですね。

これは、原作にあるラストの歌なんですよ~(^^ゞ 

はじめまして、うる星やつらを検索してこちらにきた電気ネコと申します。

他の↓のほうのアニメ「明日のジョー」などのパロディにたいする考察楽しく読ませて頂きました。
よい作品はアニメや映画 小説とジャンルほ問わず時代を超え
残るものなのでしょうね。ただパロディものは原作を知っていないと
面白さが伝わらないところもありますが。

さて、ねじ式がこのアニメに登場したときは私も驚きつつ身悶えました(笑)
寺山さんの影響があったのは確かにあるかもしれませんが これも原作の中にある‥暗く‥怪しい‥亜空間という世界を描く高橋さんの絵に すでにもとになるあるイメージが存在するのも無視はできません。その部分に着目しさらにこの映像を作り出したとも考えてます。

ただ、このあたりの表現は純粋な高橋作品ファンからは批判も多少ありますが(汗) でも当時のバックボーンがあるとアニメ版はたしかに深い‥かも(*^^)v

では失礼しました。

投稿: 電気ネコ | 2005.04.16 20:38

電気ネコさんコメントありがとうございます!
やっぱりそうですか。なるほどねえ。
私はうる星やつら全くのシロウトでして、見るのも初めて、原作も読んでいない、というとんでもやろうなのです。ごめんなさい。
そんな私のたわ言を読んでいただき、コメントまでいただいて、もう恥ずかしい限りです。
やっぱり高橋さんの創作なのですね。
天才高橋さんと、気鋭のアニメスタッフとのコラボレーションによる名作というわけですか。
それはそれで素晴らしいですよね。原作ファン、アニメファンそれぞれの意見はあるでしょうけれど。
さらに、そこにパロディという要素が加わるわけですからねえ。文化というものの深さを感じますね。
記事にも書きましたが、意識しようとしまいと、いろいろなものが語り伝えられるのが、文化なのでしょう。
この歳になって、こういう名作に出会えたことを本当に幸せに思います。ありがたや。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2005.04.16 23:12

さっそくの お返事ありがとうございました。
あ、ごめんなさいなんてあやまらなくても(^^ゞ

私はそれほど高橋信者ってわけでも(汗)
でもまあ、それはともかくこうしてうる星やつらを通じて 会話できるのは楽しいものです。

いろいろなものが語り伝えられるのが、文化‥なるほど。: 蘊恥庵庵主さんの文章は読み応えがあって面白いですね。独自の考察もちゃんとあって(*^^)v

ネットは言葉選びや文章がしっかりしてないと
伝えたいものがちゃんと伝わらないものですから 勉強になります。

では、これからも更新を楽しみにしております。

投稿: 電気ネコ | 2005.04.16 23:57

電気ネコさん、おはようございます。
そうですね。時代や場所を越えて、人をつなぐ(縁をつくる)のが本当の名作ですね。
私もまずは原作にあたってみます。
こうして、書くことによって、自分も勉強になりますので、今とっても楽しんでま〜す。
では、またお越し下さい。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2005.04.17 08:46

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