『今週、妻が浮気します』 (中央公論新社)
昨年の11月13日付けおススメは『電車男』でした。あの時は少し興奮気味に「新しい文学の幕開けだあ!」みたいなことを書いていますが、しばらくたった今、もう一度ぺらぺらっとめくってみると…やっぱり同じ感想を持ちます。大げさでなく、一つの流れを形成する最初の一滴になったと思います。その二滴目となれる作品は、いつ…と期待していたところ、先月これが発売されました。
『電車男』は2ちゃんから生まれた作品でした。こちらはOKWebから生まれました。2ちゃんほどではないけれども、知る人ぞ知るインターネット上のコミュニティーです。両サイトは明らかに住人の質が違います。つまり、サイト自体の質が違うということです。OKWebは比較的「まじめ」です。
「まじめ」から生まれたわけですから、『電車男』のようには笑えません。結構真剣に読んでしまいました。言ってみれば、『電車男』は直木賞候補、『今週、…』は芥川賞候補というところですか。ふざけるな、と言われそうですが、たぶん直木さんも芥川さんも納得してくれますよ。たぶん。
さて、その深刻な『今週、…』ですが、内容はAmazonのレビューなどを読んでいただくとして、いつもどおり私の勝手な感想を書きましょう。
まず、こうしたネット上のコミュニティーから文学が生まれるには、その主人公となる人物が、ネット上としては珍しく素直で純粋な好漢でなければならないということ。漢と言ったのは、好女はネット上では難しそうだからです。人の意見をしっかり聞いて、腹も立てず、ちゃんと返信する人というのは希有です。そこが文学を生む基本。
で、そうした主人公を囲む人たちについては、あまり特別な心配はいりません。なぜなら、人は、誰かのそばにいると、それを徹底的にいじめる立場になるか、徹底的に味方する立場になるか、徹底的に関わらない立場になるか、ついていけない立場?のどれかになります。後の二つの立場の人は発言しませんから、結果として前の二つの立場の人たちが、勝手にストーリーを盛り上げてくれます。
この『今週、…』についても、なんでここまで見ず知らずの他人のために、いろんな人が一生懸命になってるんだろう、という感慨。そして、本当にいろいろな意見があるということに驚嘆。自分一人の考えというのが、いかに狭いものかが分かります。三人寄れば文殊の知恵とはよく言ったもので、たしかに議会制というのはいいですね。
今までの文学というのは、自己表現といいましょうか、基本的に一人の脳ミソの開陳という感じでした。それが、こうして複数の脳ミソによる共同作品となる。これが「新しい」わけです。まさに仏教で言う本当の「無我」。私はこれに期待しているのです。絶対的なドグマとは対極にある言葉たち。いいじゃないですか。
あ、それから、そうした複数の脳ミソが予測できなかった結末。予定調和のようであり、実は「因縁」によって変化した結果。因果かあ…ちょっと昨日読んだ本の影響が残ってますな、私。
おっと最後に、もう一つ。今回はネット上で電子本を買って読みました。こうした形式の作品の場合、違和感がなく、なかなか良かった。紙の本より安上がりでしたし。
Amazon 今週、妻が浮気します
電子書店パピレス
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