『小津安二郎の反映画』 吉田喜重 (岩波書店)
センター試験二日目。やっぱり自分の担当している教科の時間は緊張しますね。今年はどんな問題だろう。難易度は。生徒達はいつもの力を発揮できるだろうか。
国語は1問8点とか9点とかなので、たまりません。ちなみに私、本番、模試通じて満点とったのはただ1回。昨年の本試だけです。それも2問は「エイ、ヤッ」で選んでなんとか正解。いちおう本職なんですがね。今年はどうでしょう。
今年は珍しく、評論で読んだことのある文章が出ました。吉田喜重さんの映画論(小津論)です。
吉田さんは御自身も映画監督として数多くの名作を世に出していますが、小津安二郎監督の信者としてもよく知られています。先月このコーナーでおススメした「秋日和」の岡田茉莉子さんの御主人でもあります。
若かりし日の吉田さんが、小津さんを批判した話は有名です。もちろんそれは吉田さん自身の若気の至りであったわけですけれど、逆にそうした経験がのちの吉田さんの運命を決定したとも言えます。
あのケンカ(2時間無言で酒を酌み交わした…)の最後、小津さんがつぶやいた言葉。「映画監督は、橋の下でこもをかぶって客を引く女郎と同じだ」…結果としてこの言葉を小津さんから引き出した吉田さんの若気は、歴史に残る若気になったわけです。晩年の小津さんも、吉田さんの存在によって、この言葉の意味を御自身で確認することになったのでしょうから。
この本は5年くらい前に読んだ覚えがあります。いかに小津さんの映画が映画的ではないか…まあタイトルそのまんまなわけですが、なるほど一級の同業者の冷静な分析はさすがです。何となく変だ、他と違う。そんなふうにしか表現できない私とは違います。小津の反映画を語ることによって、立派な映画論になっているわけです。
授業中小津の話をしたり、実際作品を見せたりしてましたから、受験した生徒達は取り組みやすかったと言ってました。まあ、点が取れるかどうかというのは別問題ですが。
センターで問題文として抜粋された箇所は、確かにその本質を突いた重要な部分です。この問題を作った方が、どこの大学の何という教授さんかは分かりません。しかし、相当の小津マニアであることは確かですね。入試問題とはそういうものです。作問者の思想、趣味、こだわりがはっきり表れます。私も毎年入試問題を作成しますが、ものすごい自己主張してますよ。ある意味、作品ですからね。
Amazon 小津安二郎の反映画
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