『巨匠に教わる絵画の見かた』 早坂 優子 (視覚デザイン研究所)
これもいい本でしたね。生徒の受験勉強用に買ったのですが、これは自分の家にも置いておかねば。
有名な絵画について、同時代の、また後世の画家たちはどういう感想を持ち、どういう評価を下しているのか。それらを紹介することによって、絵画の見方を学ぶというコンセプトの本です。
まず、その発想の秀逸さにやられました。いろいろな美術評論家の言は多々読んできました。そういう先入観のようなものは、結構身につけてしまっています。それが、同業者の視点から語られるだけで、いとも簡単に崩されてしまう。実に快感でしたね。
ですから、私は紹介されている画家と絵を見て、まず自分で批評してみました。批評なんてもんじゃありませんね。この絵のこういうところが好きとか、こいつの絵はこれこれこうだから嫌いとか、そんなレベルです。
それから、巨匠たちの言葉を読みました。もちろん、全然違う。それでガッカリするかと言えば、そういうことではなくて、自分は巨匠と違う視点で見たんだという、ちょっとした自己満足を感じるのです。ずいぶん都合のいい考え方ですけれど。
もちろん、巨匠の言葉にはハッとさせるものがある。なるほど、さすがです。それと同時に、ん?この巨匠は虚勢を張ってるなとか、この二人ホモだったんじゃないの〜?とか、明らかに嫉妬してるなとか、そんなことも伝わってくるわけです。つまり、批評する巨匠たちが、実に身近な人間に感じられてくる。これは実に楽しいことでした。
そして、言葉たちは、やはり無力な存在になっていく。最後は、言葉が絵画にひざまずきます。
ところで、この本の良さは、その内容もさることながら、装丁、紙面のデザインの新しさ、楽しさにも認められます。視覚デザイン研究所というだけのことはあって、視覚デザインがいかに内容の理解に貢献できるかを証明した、実に意欲的な試みをされています。新しい本の形ではないでしょうか。感心しました。
最も心に残った巨匠の言葉は、フェルメールに対するダリのそれ。どの絵に対しても、いちゃもんつけるか、バカにするかに終始していたダリ様が、なぜかフェルメールにはメロメロ。いや、もしかすると最大級のほめ殺しかもしれませんな。
Amazon 巨匠に教わる絵画の見かた
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