『ことばとは何か』言語学という冒険 田中克彦 (ちくま新書)

正直、困った本だと思いました。「ことばとは何か」…あまりに堂々とした、真っ正面からのタイトルに、大いに期待していました。しかし、フタを開けてみると、それは「ことばとは何か」ではなく、「言語学とは何か」という自問自答の本でありました(著者には別にそういうタイトルの本がありますが)。
私は自分の実感として、「ことば」と「言語」を一緒にしてほしくないと思っています。それは、私が国語学を学び、言語学を学ばなかったからではありません。「ことば」には科学では知り得ないモノが、やはり含まれていると思うからです。理論ではありません。実感です。
科学者(言語学者)は、その実感を捨てることこそが、自身の存在の端緒になるわけですが、私にはそれはできません。科学の存在意義は認めますし、科学の快感も知っているつもりです。しかし、「ことば」はそんな美しいものではない。これは、筆者も強調していることです。筆者はそれでも「ことば」と科学の間で奮闘しています。それは素晴らしい行為であるとともに、実に虚しい行為でもあります。おそらく筆者自身もそれに気づいていると思います。
私は本の後書きを最初に読む癖を持っているのですが、今回は珍しく本当に最後に読みました。そして、救われました。後書きで出会った筆者は、初めて弱さを見せてくれました。そうして、本文でピンチに陥った御自身を見事に救い上げたのです。そこで初めて「言語学とは何か」としなかった理由が分かったような気がしました。変にジ〜ンとしちゃいました。
Amazon ことばとは何か ちくま新書
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