津島佑子 快楽の本棚 言葉から自由になるための読書案内(中公新書)
まず、書評的にいうと、この本はあまりおススメできません。たぶん、多くの人がつまらない、と思うでしょう。あまりに個人的な記憶をたぐった随想であり、著者のファンであっても、期待外れの感はぬぐえないのでは。私も予想とあまりに違う内容に思わず読んでしまった(?)一人です。
私の場合は副題に惹かれました。言葉について考えている私にとって、「言葉から自由になる」というのは格好のアンチテーゼですから。ところが言葉についての言及は何もない。ついでに期待していた父親(太宰治)に対する記述もほとんどない。え〜?、と思う反面、なぜだか読み進めてしまうのです。それは、メインタイトルに偽りがなかったからでしょう。
筆者の読書の記憶とは、彼女自身の「性」への関心の記憶にほかならないのです。「性」を「快楽」と言い換えて堂々としているあたり、男である私は、少したじろいでしまうわけですが、なるほど彼女にとっての読書のモチベーションはそこにあったのですね。それで作家になっちゃうんだから、やはりそういうパワーってすごいですね。まあ遺伝的才能も認められますけれど。
で、この副題ですが、今になってみれば、これも偽りなしですよね。彼女にとっては、やはり言葉は理性の象徴なのでしょう。快楽、性、本能…言葉はその媒体にはなり得ても、それ自体にはなれないということでしょうか。
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